返事のない手紙
私は毎日同じ時間に手紙を書く。
机に座ってペンとお気に入り絵入りの葉書を用意する。
机には彼が写っている笑顔の集合写真が飾られている。
大好きなアールグレイの紅茶を一杯入れて、同じ時間、同じシチュエーションで
決まって机の前に座るのだ。
ゆっくりと頭の中で文面を考える。
初めてあった日の優しさが忘れられなかった。
それから毎日、手紙をしたためるのが日課になった。
春は花の写真を添えて、夏は誕生日のカウントダウン。
秋は本やおいしいお食事のこと。
冬はぬくもりの感謝を余すところ無く書き添える。
お気に入りのOHTOの万年筆に上品なブルーブラックのインクで
彼のマンションの住所を書き込む。
ふふっと笑みがこぼれる。
高層階のベランダからは、街のネオンと広い空と、そして夏の夜には大きく花火が見えて、それをつまみにビールを飲んだっけ。
彼の名前を、人文字人文字ゆっくりと音楽を奏でるように書き込む。
ふうと吐息が漏れる。
何度ここで彼と愛し合っただろう。
優しいキス。熱い抱擁。激しい愛撫。
そんなものがまぶたを閉じると思い浮かぶ。
書かれた文字を指でなぞる。
ココナッツ入りのクッキーを一口頬張り、カップを持って窓辺に向かう。
残された机には束になって絵はがきが置かれている。
同じ宛先が書かれた、白い文面の手紙。
窓辺に立つ顔にはなんの感情も見せたないような笑顔が張り付いていた。
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2年程前、劇場用アニメーション「マイマイ新子と千年も魔法」という作品に演出として参加した。
その時清楚な保健の先生が子供達とやりとりする辺りを担当した。
昭和半ばの万年筆を銀座まで調べに行った。
ひづる先生が不倫相手に書き送る文面を考え(この詩とは関係ありませんが)、監督が教えていた大学の学生さんに何回も書き直して頂いた。
表書きも昭和の半ばに人気があった中井喜一のお父さんの名前を元に考えた。
住所も当時の住所で今はない所番地にすることで時代と、悪戯なんかが起こらないようにと考えた。
画面では一瞬しか見えないが、引き出し一杯の同じ人に宛てて書かれ、出されることの無かった封筒の束。
まあ、シチュエーションは違えどこのシーンには私の業も込められたような気がして、好きなシーンである。
別段不倫はしてませんが、恋愛すると弱気になる私の真反対の想いが、かってにこもってしまったので。それを演出として吐き出せるのは楽しかった。よっく考えると、怖いでしょう?
今だにこの作品を好きだと行ってくださる人がメッセージなどを下さって、ありがたい気持ちで一杯です。
さて、と、まあ、生真面目に書いたけど、ええ、宣伝なんです。
「マイマイ新子」のムック本が出ていて、体調不良で私はコメント書けませんでしたが、興味のある方は是非ご覧下さいませ。
「メイキングオブ マイマイ新子と千年の魔法」アマゾンで売ってます。
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